これは、私の飼育しているニホンヤモリの観察記録である。ヤモリは体型や生態などが人間と大きく異なるため、とても面白く大好きな生き物だ。
観察対象のヤモリは、二〇二一年八月四日の夜に保護した。妹がリビングの壁に張り付いているのを発見したのである。そのまま放置すると餌を食べられず衰弱死する可能性があったため、保護することにした。
保護したヤモリは、プラスチックケースに入れて観察した。ヤモリの体長は三センチメートルほどで、頭の先から後ろ脚の付け根までと尻尾の長さがほとんど同じだった。体は灰色で、薄い茶色の細かい模様が入っている。小さい体に大きな目でとても可愛らしい。
ヤモリはケースの中をチョロチョロ探検していた。警戒心の無さと体長から、孵化して一週間も経っていないと考えられた。私はこのヤモリを飼育することに決め、時計の側で保護したことから「コッチ」と名付けた。以下、ヤモリのことをコッチと表記する。
幼体のコッチが餌を見つけやすいように十センチメートル四方の小さなケースで飼うことにした。紙コップの一部を切り取り、底を上にしてケースに入れた。出入り自由なコッチの隠れ家である。そしてパネルヒーターをケースの底半分に敷いた。半分だけなのは、変温動物のコッチが暖かい場所と涼しい場所を自分で選択できるようにするためである。毎日朝晩に霧吹きを行い、湿度を上げる。餌はトリニドショウジョウバエを一日五匹づつ与えた。
コッチを四ヶ月飼育して分かったことをまとめる。本来ニホンヤモリは夜行性のため、夜に活発に動く。しかし、コッチは主に昼頃から夕方にかけて活発に活動する。活動時間が野生のヤモリと違うのは、幼体から飼い始めた影響だろうか。
コッチの動きの一例を挙げる。地面にいたコッチが一気に壁を駆け上がり、ジャンプして紙コップに張り付く。すぐまた地面に降りていく。ケースの中を縦横無尽に駆け回る姿は、パルクールの達人のようだと思った。ヤモリの足の裏には非常に細かい毛があり、壁に張り付くことができるそうだ。
餌を捕獲するコッチは忍者のようになる。餌を見つけると音も無く忍び寄り、目にも止まらぬ速さで食べてしまう。足の指は五本あり、手の平の部分が狭い。これが歩く時に音がしない理由の一つだろう。水を飲む時はケースの底に溜まった水ではなく、霧吹きした壁の水滴を舐めるように飲む。野生でもこのように朝露などで水分を補給するのだと思われる。
コッチは餌を順調に食べ、十月上旬に脱皮をした。思い返せば、脱皮前日のコッチは体色が白っぽく濁っていた。その時は保護色かと思ったが、古い皮を脱ぐ準備をしていたのだ。脱皮後のコッチは全体的に濃い灰色になっていた。しかし、次の日には普段と同じ体色に戻っていた。脱皮殻は紙コップに張り付いており、白く薄く、触ると少し手に着く感触があった。皮は胴の部分しかなく、手や指、顔の皮は残っていなかった。ヤモリは脱皮殻を食べると聞いたことがある。おそらくコッチも食べたのだろう。十二月には二回目の脱皮をし、体長四センチメートルほどになった。最近では小さいコオロギも食べられる。
以上が四ヶ月間コッチを観察した記録である。生き物の知識を得るとき、図鑑などの資料を用いることもできるだろう。だが、今回のように自分で観察することも、自分自身で考えたり確認したりできる優れた手段だと思った。コッチは幼体だったため、今回は捕食や世話のしやすさを優先し、シンプルな環境で飼育した。今後コッチが成体になったときは、より自然環境に近いレイアウトで飼育し、行動を観察したい。